一種のセラピー本というか、自分自身の中でこの事件にひとつの区切りをつけるために、彼女はこれを書かねばならなかったのかもしれないな、と読みながら思いました。
十二歳の少女が自転車で学校に行く途中、さらわれて監禁される。その体験も凄まじいのですが、この本は救われても終わらない被害者の苦悩について、いろいろと教えてくれます。
テレビをつけると、自分の顔が映っている。新聞にも載っている。見知らぬ人が、まあかわいそうに、と彼女を抱きしめようとする。あからさまな心ない言葉はもちろん、度を超した気遣いによっても疲弊し、世の中とのかかわりを維持していくのか困難になる。当然、家族とのあいだもギクシャクする……。
やりきれないのは、彼女が生き延びてしまったという事実にどうしても罪悪感を拭いきれずにいる、という場面があることです。
犯罪被害者の少女たちのための催しに、ほとんど使命感のようなものを覚えて出席したサビーヌは、そこで、娘を失った親たちの前に立つことになります。
これがうちの娘、と写真を見せられて、まるで「娘は死んだのになぜあなたは生きているの」と問いかけられているように感じるサビーヌ。彼女はなにも悪いことはしていない、卑劣なのは殺人犯だとわかっていても、割り切れないのです。
また、救出のきっかけは、次の被害者レティシアがさらわれたとき、目撃者が多かったからなのですが、レティシアが被害に遭ったのは自分のせいではないか、とサビーヌは自責の念にかられることになります。なぜなら、長い監禁生活に疲れ果てたサビーヌは、犯人に「友だちがほしい」と訴えていたからです。
悪いのは犯人のデュトゥルーという男なのに。
サビーヌは本書を「犯罪者の再犯防止」の一助になれば、という思いもこめて書き上げたそうです。なぜなら、彼女を監禁した男は、すでに強姦などの罪により刑務所に入れられていたのですが、模範囚であるということで、検察官や精神科医の反対も虚しく釈放されてしまった――そのため、六人の少女がさらわれ、四人は遺体となって発見されるという事件が起きたからなのです。
重苦しいテーマを扱う本書ですが、サビーヌの不屈の闘志は、読者を元気づける力をもっています。やりきれなさを覚えるのもたしかなのですが、人はすべてを乗り越えていけるのだ、とも思える一冊でした。
ここから出して!
著者名:サビーヌ・ダルデンヌ(著)
松本百合子(訳)
出版社:ヴィレッジブックス
出版年:2007.12
ISBN :9784863329324
