著者(訪日当時、軍での階級は軍曹)は、真珠湾に奇襲をかけた卑怯な日本人に憤りを覚えて軍に入った、いわばスタート地点では「愛国心に燃えた青年」でした。しかし日本人を攻撃する機会はないまま、降伏したというニュースを知らされて、写真撮影の任務を与えられたそうです。味方が上陸する様子を撮影するところから彼の仕事は始まり、個人的な写真を撮りたくて、タバコと交換に日本で自分のためのカメラを購入した……その個人のカメラで撮影した写真群が、この写真集におさめられています。
比較的平穏な光景を伝える写真から、有名な「焼き場に立つ少年」まで、さまざまな写真がありますが、著者の中に生まれた「敵国人も、人間なのだ。かれらにはかれらの平穏な暮らしがあったのだ。戦争がそれを奪った。戦争とは、自分が正義と信じていたものとは、なんだったのか」という心の揺れが、ひしひしと伝わってくるかに感じられました。
こんな風に爆心地をまわって、彼自身は大丈夫だったのだろうかとドキュメンタリーを見ながら案じていたのですが、番組中で明かされたように、彼もまた後年、被爆が原因と思われる症状に悩まされることになったとか。
原爆開発中の実験でも、なにも事実を知らされないまま多くの兵士が被爆しているそうですが、なんでそういうことになるのかと。ほんと、人間てどうしようもないよなと思わされます。
でも、個人的に写真を撮り、ひそかに持ち帰り、ずっと封印していたものを日の光に晒し、原爆は善であったとする世論にこれらの画像を突きつけたオドネル氏のような人がいる限り、やはり捨てたものでもないかと――その代償として、彼は世間の中傷にさらされ、家族は崩壊したのですが。それでも、自分が撮影した被爆者との再会を果たせたのは、彼がトランクを開けたからなんですよね。
去年、氏は亡くなったそうですが、本書のあとがきには、自分が死んでも写真を見、この本を読んでくれる人がいる限り、伝えつづけることができるだろう、とあります。どうかこの本が長く、語り継がれますように。版元様、よろしくお願いします。
トランクの中の日本
著者名:ジェニファー・オルドリッチ(著)
ジョー・オダネル(写真)
平岡豊子(訳)
出版社:小学館
出版年:1995.05
ISBN :9784095630137
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