わたしの父は山口の出身で、母は佐賀。位置的にいって、どちらもニア・ザ・ゲンバク。昭和一桁生まれです。
父は、広島から歩いて逃れてきた被爆者を見たそうです。ひどい火傷を負って、喉がかわいた、なにか食べるものをくれといわれたので、思わずもっていた弁当をあげてしまったと。
当時、「弁当をあげる」などというのはとんでもないことで、父は家に帰ってしこたま怒られたそうですが。なぜとんでもないか? 食べ物がなかったからです、と、一応書いておきます。わからない人もいるかもしれないので。
母は鹿島高女の生徒で、「せっかく高等女学校に行かせてもらったのに、戦争のせいで勉強ができなかった」と、よくいっていました。英語を教わるつもりだったのに、敵性言語で教えてもらえなかったと。
勤労奉仕ばかりで、といっていました。
母自身だったか、母の友だちだったかが「ピカ」を目撃したそうです。
同窓生の誰か――たしか、具合が悪かったかで、休んでいた人じゃなかったかな――が、原爆で亡くなったそうです。
どちらも二十年以上前、わたしが高校生くらいだったころ、興味をもって訊いてみた話なので、どれくらい事実に正確かはわかりません。ただ、原爆が落ちたことを、そこまで他人事ではなく、といって当事者というわけでもなく、なんとなく知っているのだなと思いだしただけです。
とまあ、自分の記憶をいろいろと刺激される物語でした。
記憶はおいておくとして、漫画本編。素晴らしかったです。たしかに、評判になるだけの作品でした。
「夕凪の街」は原爆を生き延びた女性が、なぜ自分は生きているのか、生きていてもよいのかと、数多の死者を思いだすたび葛藤にかられる話……と、まとめると陳腐になるだけなのですが、本編はものすごいです。
そして「桜の国」は、その女性の親族のその後を描き、被爆二世問題を扱っています。
大上段にふりかぶって正論をぶつけてくる堅苦しさはなく、たしかにそこに生きて、そういう人生を送った人がいたのだろうと、心の底になにかがことりと落ちていくように納得できる話です。
文庫化されたのを機会に、より多くの人に読まれることを願ってやみません。
生まれた以上、人は皆、いずれ死ぬのだけれど。理由の如何を問わず、死だけは「結果」として平等に訪れて、その先になにがあるのかなど誰にもわからないのだけれど……そのひとつの理由として、縛りつけられた呪いのように「原爆」の周囲を回りながら生きてきた人が、きっと今までもたくさんいて、これからもいるのでしょう。
夕凪の街桜の国
著者名:こうの史代(著)
出版社:双葉社
出版年:2008.04
ISBN :9784575713435
今日は、相次いで訃報を聞いた日でもありました。野田昌宏さま、氷室冴子さま、素晴らしい作品をわたしたちに遺してくださり、ありがとうございました。同じ時代に生きられたことを、感謝します。
どうぞ、ゆっくりお休みください。
