2008年03月24日

読了メモ:シャルビューク夫人の肖像

 ああもう、だから読みたい本は一気に読んじゃうから駄目だって自分でもわかってるのにこうなるんだから! ……というわけで、寝る前に少しだけ読むつもりでこうなりました。朝ですね、そろそろ。
 やはり寝る前に小説を読むのはやめなければ……でもそうやって自制して新書系の啓蒙書ばかり読んでいると、ますます「これは絶対読む! 読むし!」と思いながら積み上がった本が着々と室内で行方不明になるわけです。困ったなぁ。

 いやまあ、それはともかく。

 去年、これはすごいと唸らされた『ガラスのなかの少女』を書いた作家、ジェフリー・フォードの作品です。
『シャルビューク夫人の肖像』……思ったより早く、文庫に落ちてくれました。実は出てすぐ買ったのですが、読み始めたらこうなると思って積んであったのです。わたしの自己認識はどうしてこうイヤな方向に正確なのでしょうか!

 今作も、やはり「少し昔のアメリカ」を舞台にし、予言者として名をなしたという謎の女性からの肖像画作成依頼にとり憑かれる画家の運命を描いていきます。なにしろ、肖像画を描けというのに衝立の向こうから声を聞かせるだけ、姿は絶対に見せないというのです。この設定だけでも、かなり期待値は高まるというもの。しかも、ジェフリー・フォードだし!
 期待通り、変てこりんですてきな話でした。

 シャルビューク夫人の正体はなんとなく、……あーいや、でもほんとうの意味で「シャルビューク夫人とは誰だったのか?」はむしろ永遠の謎かもしれないなあ。彼女は実像と虚像のあいだにある、いわば鏡の硝子面みたいなもののように思われます。

 主人公はどうしようもない男ですが、でも自分にもこういうところあるよな、となんとなく納得してしまうのが罪な人。好きなのは主人公の友人でラファエル前派風の画風をもち、貧民窟というか犯罪者の巣窟に好んで居を構え、豪奢な調度に囲まれてアヘンをキメちゃっているシェンツです。
 あと、実はワトキンもさりげなく良かった。

 うっは、それは無理! というほど荒唐無稽なことを持ち出しながら、一方では細心過ぎるほど緻密であるという、この妙なバランス。ああもう、素晴らしい。信じられない奇跡、あり得ない超自然、すべてをシニカルに描写しながら、その深奥に潜むほんとうの不思議を描ける作家、と思います。

 変な作家だ、とも思います。大好きです。
シャルビューク夫人の肖像

著者名:ジェフリー・フォード(著)
田中一江(訳)
出版社:ランダムハウス講談社
出版年:2008.03
ISBN :9784270101667

本家サイト感想文一覧 63870 ジェフリー・フォード
posted by うさぎ屋 at 05:10| Comment(7) | TrackBack(0) | 小説
この記事へのコメント
ジェフリー・フォードいいですよね。
ファンタジー部分(幻想風味)とミステリ部分(論理風味)が渾然一体となり、ファンタジー風かなと思ったところを論理で語ったり、その逆だったり、読者に展開を予想させない技の持ち主ですね。
Posted by 高橋ま at 2008年03月25日 21:04
 いいですねぇ! いいですねぇ! すごくいいです。
 国書刊行会から出ているハードカバーは、買うべきでしょうか……文庫に落ちるとは思えないし。お読みになってますか?
Posted by うさぎ屋 at 2008年03月25日 23:57
『白い果実』は読みました。
追い落とされた元エリートを主人公に、奇妙で複雑な世界を十全に描いた豪華絢爛の純ファンタジーですね。ジーン・ウルフの新しい太陽の書シリーズと似た感触があります。世界が熟れすぎて腐りかけた甘すぎる果実のようなところが。って、こんな比喩でわかるでしょうか。
『ガラスのなかの少女』『シャルピューク夫人の肖像』とは異なりファンタジーで押し切っています。
たぶん、うさぎ屋さんはよろこぶでしょう。三部作(のうち2冊しか出ていない)ですが、同じ世界を舞台にしているというだけみたいなので、1冊ずつ読んでも可でしょう。

ところで全然関係ない話ですが、いまさらの質問ですみません。
質問とは、うさぎ屋さんのHNは安房直子『うさぎ屋のひみつ』と関係があるのでしょうか。高橋はこの名作をまったく知らなかったのですが、このあいだ出会って、ちょっと驚いたものですから(笑)。
Posted by 高橋ま at 2008年03月26日 15:47
 たぶん喜ぶといわれては、やはり買わないわけには……でも今月はもうネット書店予算を使い切ったので、来月なんとか。

 ご質問の件ですが、わたしは安房直子さんのご本を読んだことがないのですねぇ、実は……。読んだらきっと気に入るといわれているので、「いつか読む本」のつもりではいるのです。頑張ります!

 というわけで、ハンドルは安房さんの書かれた物語とは無関係です。単に、うさぎがらみのハンドルにしたいなぁと思い、最初に思いついたのが「三月ウサギ」で、それは絶対誰かとかぶるから駄目だと。
 で、次に思いついたのが、当時、銀座に行くと食事をしていたうどん屋さんの名前が「兎屋」だったこと。あ、なんか「屋」つけるのいいかな、と(なんとなく)思い、そのまま入力しました。

 ニフティ時代のことですが、ほら、フォーラムに入会するときにハンドルをつけなきゃいけなかったでしょう? それで、そのときに「早く入会したいから、適当につけちゃえ」と。
 十年以上も使いつづけるとわかっていたら、もうちょっと慎重につけたか……というと、そんなことはないんですけど。ペンネームも、その場の勢いで「エイッ」とつけてしまったし。
Posted by うさぎ屋 at 2008年03月27日 00:38
ご丁寧な回答ありがとうございます。了解しました。不思議な暗合といったものなのですね。

フォードについて。
想像ですが、異世界ファンタジーを書いてきた作家が、不可思議な状況で、論理的な謎を仕掛けるというのは、作家自身の存在さえミスリードに使うという驚愕のトリックかも(笑)。
Posted by 高橋ま at 2008年03月27日 02:14
ちょっと訂正。
『白い果実』『記憶の書』はともに同じ主人公ですが、特に続いているわけではないようなので、だいじょうぶのようです。
Posted by 高橋ま at 2008年03月27日 11:53
 たしか『白い果実』の方が先に出てるんですよね? とりあえず購入ボタンをポチッとな。

 ……ああっ、来月になるまで待つつもりだったのに、なぜ!?
Posted by うさぎ屋 at 2008年03月28日 16:37
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