1999年に発生した東海村の臨界事故後、致死量レベルの放射線を浴びて治療を受けた作業員のうち、そのひとりの治療経過を追った一冊です。ドキュメンタリー番組の文庫化で、単純にわかりやすく見せねばならないテレビ番組の、「絵」や「音」や「間」の力が及ばないかわりに、カルテなどの資料や突っ込んだ説明が盛り込まれています。
また、自分が受け入れられるペースで考えながら読むことができるのも、本というメディアの特徴でしょう。
つらい本です。
遠くで起きた臨界事故なんて、他人事に過ぎないと感じるかもしれないけれど。でも、日本なんて狭い国で、どんな人でも「知り合い」を十数人程度辿れば「知り合い」ということになる程度の規模。
あなたは原子力施設の近くに住んでいないかもしれません。
あなたの大事な人は住んでいませんか。
あなたの大事な人の大事な人は……?
かなり結末近くに、本書で治療を受け、83日間戦いぬいた大内氏の細君から医師に届いた手紙からの抜粋が掲載されています。
乱暴にまとめてしまうと、「原子力に絶対の安全などない。国や会社がその危険性の周知徹底をしてくれるとは、とうてい望めない。ふたたび事故は起きるだろうと思わざるを得ない」という内容です。
非常に冷静で、妥当な分析だと感じました。
その認識の上にたって、手紙はつづきます――だから、夫や同僚が命を削って教え残したものがある医療の分野でこそ、進歩していってほしい。次に事故があったときのために、と。
こんな手紙が医師のもとに届いたという事実から、犠牲者の家族は、行政や企業から信頼するに足る対応を受けなかったこと、そして医療チームはその信頼を勝ち取るにふさわしい働きをしたのだということが、読みとれるような気がしました。
朽ちていった命
著者名:NHK「東海村臨界事故」取材班(著)
出版社:新潮社
出版年:2006.09
ISBN :9784101295510
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