2006年06月27日

読了メモ:功名が辻 1

 えー、最近になって大河ドラマにはまっているわけで、どうしても気になったので原作を買ってみました。

 実をいうと、司馬遼太郎氏のご高著は『空海の風景()』しか読んだことがなく、それを読んだときに、なんだか合わない作家さんかもしれないなぁ、と思ってしまったので、それ以外に読んでいなかったのです。
 合わないというのは、面白いとか面白くないとかではなく、作品世界を作者が見下ろす視点からの書きぶりが、完全没入型の自分にとっては、ちょっと苦手かなぁ、と。そういう意味です。

 しかし大河ドラマを見て、これは原作をかなり脚本で変えているのでは、とどうしても気になり、その「変えかた」を確認したくて買いました。そしてやはり、今回も司馬遼太郎氏の視点はあまりに高くから(現代から)見下ろしていて(中世日本を)、やはり馴染めないなぁ、と思いました。おもしろいんですけどね。こればかりは個人の嗜好の問題なので、どうにもなりません。

 で、気になった脚本の件ですが、ドラマとして盛り上げ、つまり「中世日本の中に現代人が違和感なく入りこむため」に、ものすごく手を入れていて、これが、うまい。実に見事。
 たとえば、一巻の最後の方で千代が虎の子の金貨を出すシーンがあるのですが、……あ、以下ネタバレなので、一応、追記機能を使いますね。
功名が辻 1 新装版
著者名:司馬遼太郎(著)
出版社:文芸春秋
出版年:2005.02
ISBN :4167663155

 というわけで、ここから下は小説版一巻の後半部分の内容にふれます。

 小説ではただ金貨を出して、これを今まで隠し通していたのか、情のこわい見通せぬ女子と夫にいわれて泣きだし、この涙までもが完全に「計算のうち」なので、ほんとうに千代はかわいげがないんですが……。

 ドラマでは、まず、この金貨を千代に渡してくれた伯父が亡くなるシーンを、その前の週くらいに入れてあるんですよ。伯父の千代への好意と、金貨十枚を「婿殿の大事のときにだけ使うのだ」と言い含めた才覚と、そしてその伯父がもう亡い人であるという展開を見せて、千代の「隠しておいた金貨十枚」に、人情の重みを載せています。
 さらに、このときの一豊と千代との諍いを、当時、信長と心を一にできなくなっていたお濃の方が、偶然聞いてしまうことで、濃に「想いをひとつにして、信長と添い遂げよう」という決意を新たにさせています。
 その馬を信長が見に来るシーンも添えられて、一豊の禄高を上げて「励め!」とじかに声をかけさせています。
 お濃の方からも、砂金を賜っています。

 このへん、原作には一切ありません。
 史実を重んずるなら、たぶん、「ないシーン」ばかりなのでしょう。信長が、一豊にじかに声をかけるとか、そういった展開は。

 でも、ドラマではそれだけ繋がりをつけておいて、その次の次の週には信長と濃は本能寺で死に、それを知った一豊が信長の「励め!」という台詞を想起するシーンを入れることで、「遠くにある上様」ではなく、「信長という人間」の死としてとらえている……という風に演出されるわけです。
 畳み掛けるように、こまかいエピソードが効かせてあり、我々現代人である視聴者から見て好もしい人物に、千代も、一豊も、その積み重ねで変化を遂げているように感じます。

 淡々と出来事をつらね、現代の視点から「ご高察」を投げかけているその冷静さ、透徹した史観そのものが魅力なのではないかと想える、原作とはまったく違った魅力が、ドラマ版には生まれているわけで、まったく、感服つかまつりました……としかいいようがありません。

 で、ですね……困ったことに、本を読んでいると千代の台詞が仲間由紀恵さん(ドラマでの千代役の女優さん)の声で聞こえてきてしまうのです。うわー。ドラマの刷り込み、おそるべし!
posted by うさぎ屋 at 23:29| Comment(0) | TrackBack(1) | 小説
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06/27 功名が辻 1
Excerpt: やがて土佐一国の大名となる山内伊右衛門一豊。貧相な武者が、功
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